新NISAは「どう貯めるか」の情報はあふれていますが、「どう使うか(取り崩すか)」はあまり語られません。私自身はまだ取り崩しの段階に入っていませんが、50歳でのセミリタイアに向けて、出口の設計図を一度きちんと描いてみました。
結論から言うと、出口は「いくら貯めたか」よりも「どの順番で、どこから使うか」で決まります。これは私の確定した計画ではなく、考えるための設計図です。率直に、数字を並べて書いていきます。
出口は「いくら貯めたか」より「どの順番で使うか」
以前の資産配分の記事では「貯める順番=守りを固めてから攻める」を書きました。この記事はその対になる「使う順番」の話です。
なぜ順番が効くのか。お金は「すぐ使えるか」「課税か非課税か」で性質がまるで違うからです。順番を間違えると、余計な税金を払ったり、相場が下がった時に資産を売らざるを得なくなったりします。逆に順番さえ整っていれば、同じ資産でも長持ちし、暴落の年も慌てずに済みます。
ここでは「50歳で5,000万円・新NISAは満額・生活費は月25万円」という想定で考えます。内訳はこうです。現金1,000万円、新NISA1,800万円(つみたて投資枠のS&P500が600万円+成長投資枠の日本の高配当株が1,200万円)、特定口座2,200万円(S&P500が1,000万円+高配当株が1,200万円)。
金額はあくまで一例です。ご自身の状況に置き換えて、考え方(置き場所と順番)の部分だけ持ち帰ってもらえれば十分です。
我が家の「お金の置き場所」は4つ
5,000万円をひとまとめに見ると動かしづらいので、性質ごとに4つの置き場所に分けて考えます。
| 置き場所 | 中身(50歳時点) | 役割 |
|---|---|---|
| ①生活防衛資金 | 現金 1,000万円 | すぐ使えて課税もなし。暴落の緩衝材・日々の不足の穴埋め |
| ②配当を生む高配当株 | NISA成長枠1,200万+特定1,200万=2,400万円 | 取り崩さなくても毎年お金が入る(手取り約86万円/年) |
| ③育てるS&P500 | NISAつみたて枠600万+特定1,000万=1,600万円 | 配当なし。年5%で増やし、取り崩すのは最後 |
| ④企業型DC(別枠) | 60歳まで引き出せない | 老後の土台。5,000万円には含めず、60歳以降に合流 |
①の生活防衛資金を厚めに持つ理由は家計見直しの順番の記事に、②と③の役割分担(成長枠で配当を非課税に受け取る考え方)は新NISA成長投資枠の使い方に書いています。④の企業型DCは60歳まで触れないお金なので、50〜60歳の生活費にはあてにせず、別枠として置いておきます。
なお、配当の金額は「配当利回り4%」を前提に計算しています。高配当株2,400万円なら税引き前で年96万円、このうちNISA分(1,200万円)は非課税で48万円、特定口座分(1,200万円)は約20%課税されたあとで約38万円、合わせて手取り約86万円です。利回りは銘柄や年によって変わるので、あくまで目安の数字です。
第1幕・50〜60歳——少し働くと、橋渡しは驚くほど軽くなる
私の考えるセミリタイアは「完全に働かない」ではありません。50〜60歳の間も、月20万円くらい(手取り)は何かしら働くつもりです。すると収支はこうなります。
- 収入:仕事 240万円+配当 約86万円=約326万円/年
- 生活費:月25万円=300万円/年
- 差引:+約26万円/年の黒字
正直に言うと、これが一番の発見でした。少しでも働くと収入が生活費を上回り、投資も現金もまったく取り崩さなくていい。むしろ毎年26万円ずつ積み増せて、10年で約260万円のプラスです。
その間、配当を出さないS&P500(1,600万円)は年5%で放置すれば10年後に約2,606万円へ。結果、5,000万円は減るどころか、60歳時点で約6,300万円に増える計算になります。「50〜60歳の橋渡し」は、フルでなくても少し働くだけでほぼ解消してしまうわけです。(仕事の手取り20万円が10年続く前提です。健康や仕事の有無で変わる点は正直に置いておきます。)なお、より控えめな月5万〜15万円で働く場合に、税・社会保険・年金まで含めて家計全体が成立するかは、検証記事「50歳セミリタイアは成立するのか」で計算しています。
第2幕・60歳から——年金と配当を土台に、足りない分だけ取り崩す
60歳で仕事を区切り、年金を繰り上げて受け取り始めるとします。仮に65歳ベースの見込みを月18万円とすると、60歳からの繰上げは24%減って月13.68万円=年約164万円。すると収支はこうです。
- 収入:年金 約164万円+配当 約86万円=約250万円/年
- 生活費:300万円/年
- 差引:不足 約50万円/年(ここを取り崩す)
不足の約50万円を投資資産(60歳時点で約5,000万円)から取り崩すと、取り崩し率は約1.0%。よく言われる「4%ルール」の4分の1ほどです。しかも現金が約1,260万円別にあるので、相場が下がった年はそこと配当でしのいで、資産は売らずに待てます。下の図が二幕の収支のかたちです。
取り崩す「順番」——非課税を最後に残す
では、足りない分はどこから出すか。私はこの順番で考えています。
- まず配当を生活費にあてる(取り崩しではないので、いくら使っても元本は減らない)
- 足りない分は現金で平準化する(相場が下がった年に資産を売らずに済むバッファ)
- それでも足りなければ特定口座を取り崩す(S&P500の値上がり益には約20%課税される)
- NISAは最後に残す(非課税で増え続ける器なので、いちばん長く運用したい)
なぜ、税金のかかる特定口座から先に崩すのか。理由はシンプルで、NISAは運用益に税金がかからないからです。同じお金を運用し続けるなら、税金のかからないNISAをできるだけ長く持っていたほうが、増えた分がまるごと自分のものになります。逆に特定口座は、増えた分(値上がり益)に約20%の税金がかかります。だから「税金がかかるほうを先に使い、かからないほうを最後まで残す」。たったこれだけで、トータルで手元に残るお金が変わってきます。
育てる役のS&P500は、最後まで売らずに複利で伸ばします。高配当株は配当の源なので保有を続けます。S&P500そのものを選んだ理由はこちらの記事に書いています。
毎年いくら崩す?「定額」か「定率」か
崩す順番の次は「毎年いくら崩すか」です。大きく分けて、毎年同じ金額を崩す「定額」と、その年の残高の一定割合(たとえば年4%)を崩す「定率」があります。定額は毎年の収入が一定で予算が立てやすく、安心感があります。一方で相場が下がった年も同じ金額を売るので、価格が安いときに多くの口数を手放してしまい、資産が早く目減りしやすいという弱点があります。定率は逆で、収入は年によってブレますが、相場が下がれば売る金額も自動的に減るので資産が枯渇しにくい。どちらが上というより、「安心」と「長持ち」のトレードオフです。なお、こうした取り崩しは証券会社によっては毎月自動で行う「定期売却サービス」でも設定できます。
我が家は、基本は定額でいくつもりです。毎年だいたい同じ金額が入ってくるほうが暮らしの予定を立てやすく、気持ちが落ち着くからです。そのうえで、定額の弱点(下がった年に多く売ってしまう)は、厚めの現金でカバーします。暴落が来た年は投資からの取り崩しをいったん止めて、1,000万円規模の現金と配当でしのぐ。相場が戻ってから、また淡々と崩しを再開すればいい。こうすれば「定額の安心」と「下がった年は売らない(定率のよいところ)」を両取りできます。
正直、ここがいちばん伝えたいところかもしれません。1,000万円の現金は、生活費だけで見ても3年分ほど。さらに第2幕で実際に足りないのは年約50万円なので、その不足を現金で埋めるなら、相場と関係なく何年も持ちこたえられます。だから暴落が来ても、慌てて売らずに済む。定額か定率かという技術論より、「いつでも心穏やかでいられる状態をつくっておくこと」のほうが、私には大事でした。
「4%ルール」をそのまま信じない理由
取り崩しの話でよく出てくる「4%ルール」。資産の4%を毎年取り崩せば、ざっくり30年はもつ、という米国発の目安です。便利ですが、私はうのみにしていません。前提が日本と違うからです。円で暮らしていて為替がある、配当や売却益には税金がかかる、そして私の場合は「完全リタイア」ではなく少し働く——条件が変われば、当てはまり方も変わります。
だから私は「ルール」より「置き場所と順番」で考えます。実際、上の設計だと我が家の取り崩しは約1%に収まり、4%よりかなり保守的です。これはあくまで我が家の考え方で、誰にでも当てはまる正解という意味ではありません。
正直に補足すると、この設計では細かい部分を単純化しています。会社を辞めたあとの社会保険料(国民健康保険や住民税)、年金や配当にかかる税金、そして物価が上がるインフレは、ここでは厳密に織り込んでいません。実際にはこのあたりも効いてくるので、近づいたら年金や保険料の見込みを調べて数字を更新していくつもりです。それでも「働く10年は黒字/年金期は資産の約1%の取り崩し」という大きな絵は、多少ぶれても崩れにくい、というのが今の手応えです。
なぜ年金を60歳から(繰上げ)受け取るのか
年金は60歳から受け取る前提にしています。65歳より早くもらう分、1か月あたり0.4%、60か月で24%減り、本来の76%を生涯受け取る形です(1962年4月2日以降生まれの減額率。2026年6月時点の制度)。仮に本来が月18万円なら、繰上げで月13.68万円になります。
毎月4.3万円ほど少なくなりますが、60〜65歳の5年間で先に約821万円を受け取れます。総額が65歳開始に逆転されるのは、ざっくり81歳あたり。私の考えは、高齢になってから多くもらうより、動けるうちに受け取って旅に使いたい、というものです。損得よりも「使える時間にお金を寄せる」。正直、ここは数字より価値観の話です。なお繰上げは一度決めると取り消せないなど注意点もあり、年金の見込み額はねんきんネットで確認するのが確実です。
まとめ——出口が描けると、今の積立に迷いがなくなる
繰り返しますが、私はまだ取り崩していません。これは現時点の設計図です。それでも出口を一度描けたことで、今のつみたてを安心して続けられるようになりました。「貯めた先」が見えていないと、相場が動くたびに不安になりますが、使う順番まで決めておけば、積立はただ淡々と続ければいい。近づいたら数字は更新していきます(基準日は2026年6月)。
あわせてどうぞ。お金の全体像はお金の完全ガイド、現金と投資の配分の理由は資産配分の記事、口座をどこで持つかは新NISAの証券会社は最初が肝心にまとめています。
※本記事は私個人の設計と考え方の記録で、特定の投資手法や受給方法を勧めるものではありません。税制・年金制度は変わることがあります。詳しくは免責事項をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 新NISAは取り崩すと枠は戻りますか?
A. 売却した分の「買ったときの値段(簿価)」が、翌年に生涯投資枠(1,800万円)へ戻り、再利用できます。ただし再投資はその年の年間投資枠(つみたて120万円+成長240万円=360万円)の範囲内です。(2026年6月時点の制度)
Q. 50歳で会社を辞めると企業型DCはどうなりますか?
A. 原則60歳まで引き出せません。退職後は運用を続ける「運用指図者」になるか、iDeCoなどへ移すのが一般的です。受け取りは原則60歳以降。詳しい手続きは加入先で確認してください。
Q. 年金は本当に60歳からもらうべきですか?
A. 損得だけなら、長生きするほど受給を遅らせる(繰下げ)ほうが有利です。私は「使える時間」を優先して繰上げを選ぶ考えですが、正解は人それぞれです。
Q. 取り崩しはどの口座から始めますか?
A. 我が家は「配当→現金→特定口座→NISA」の順です。課税される特定口座を先に、非課税のNISAを最後に残す考え方です。
Q. 4%ルールで足りますか?
A. 米国発の目安で、日本は為替・税・働き方が違うのでうのみにしていません。我が家の設計では取り崩しは約1%に収まります。
