「50歳までに資産5,000万円を作って、セミリタイアする」。このブログの目標として何度も書いてきた一文ですが、正直に言うと、この目標が本当に成立するのかを、家計の実数で検証したことは一度もありませんでした。
本記事では、わが家の実際の数字(生活費・年金の見込み・退職金の概算)を使って、50歳セミリタイアの成立可否を検証します。新NISAをどの順番で取り崩すかという「出口の設計図」は別記事(新NISAの出口戦略)にまとめているので、本記事はその一歩手前、「そもそも成立するのか」という判定です。
この記事の結論(2026年7月時点)
- 出口戦略の記事と同じ資産の内訳(手取り配当 年約86万円)を前提にすると、労働収入が月5万円でも資産は100歳前後まで持つ試算。月10万円以上なら計算上は尽きない
- 基本ケースは運用リターン・妻の収入・企業型DCを見込まない保守条件(S&P500が年3%で育つ参考ケースも掲載)
- 判定:成立。ただし鍵は総額5,000万円よりも、配当を生む高配当株2,400万円を作り終えられるかどうか
「セミリタイア」の定義を先に決める
検証の前に、言葉の定義を決めておきます。本記事でのセミリタイアは「完全に働かないこと」ではありません。会社員は辞めるが、ゆるく働いて月5万〜15万円程度の労働収入は確保する、という状態を指します。
出口戦略の記事では月20万円働くケースで50代の資金繰りを描きましたが、正直に言うと、月20万円は「ゆるく」の範囲を超えているかもしれません。そこで本記事では、より控えめな月5万円・10万円・15万円の3つのシナリオで検証します。
退職後の家計は、3つの期に分かれる
会社を辞めると、家計の形そのものが変わります。細かい数字に入る前に、収入と支出がいつ始まり、いつ終わるのかを1枚にまとめました。
これを時期で区切ると、家計は3つの期に分かれます。
| 期間 | 入ってくるもの | 出ていくもの | 家計の状態 |
|---|---|---|---|
| 50〜60歳 | 労働収入+配当 | 生活費+国民年金+国保・住民税 | 取り崩し期(年99万〜219万円) |
| 60〜65歳 | 労働収入+配当+繰上げ年金 | 生活費+国保 | ほぼ収支トントン〜黒字 |
| 65歳以降 | 配当+年金 | 生活費+国保 | 小さな取り崩し(年約85万円) |
つまり、勝負は最初の10年です。60歳で繰上げ年金が入り始めると収支はほぼ釣り合い、65歳以降の取り崩しは年85万円程度に収まります。以下、この3つの期を順番に見ていきます。
検証の前提(2026年7月時点)
計算に使った前提の一覧です。読み飛ばして、必要になったら戻ってくる使い方で大丈夫です。
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 世帯の生活費 | 月25万円(年300万円)。現役の今と同じ水準 |
| スタート資産 | 5,000万円(目標)+退職金 約600万円(概算・退職時期で変動)。内訳は出口戦略の記事と同じで、現金1,000万円・新NISA1,800万円・特定口座2,200万円 |
| 労働収入(私) | 月5万円・10万円・15万円の3シナリオ(50〜65歳) |
| 妻のパート収入 | 月10万円程度を見込むが、計算からは除外 |
| 配当収入 | 年約86万円(手取り)。高配当株2,400万円(NISA成長枠1,200万円+特定口座1,200万円)からの想定で、出口戦略の記事と同じ前提 |
| 公的年金 | 60歳から繰上げ受給・年約149万円(詳細は後述) |
| 社会保険 | 夫婦とも国民健康保険+国民年金に加入 |
| 運用リターン | 基本ケースでは見込まない(S&P500が年3%で育つ参考ケースを後述) |
妻の収入を除外しているのは、「妻が働き続けること」を計画の前提条件にしたくないからです。実際には年120万円ほどが見込めるので、これは丸ごと安全余白になります。
配当の2025年実績は約28万円です。年86万円という前提は、50歳までにNISA成長枠を埋めて高配当株2,400万円を作り終えている、という意味です。ここが未達なら試算は前提から崩れます(後の判定でも触れます)。なお、本記事の数字はすべて2026年度価格の概算です。
50歳:退職して最初の1年に、何が起きるか
セミリタイアの記事で意外と書かれていないのが、退職初年度の重さです。会社員のうちは給与から天引きされていた税金と社会保険が、退職の翌日から「請求書」に変わります。
- 住民税:前年の所得に課税されるため、収入が減った初年度に現役最後の年収ベースの請求が来ます。私の場合、概算で約55万円
- 国民健康保険:保険料は前年所得で計算されるため、初年度は賦課限度額(上限)近くになる見込み。夫婦2人で年90万〜100万円程度(自治体によって差があります)
- 国民年金:2026年度の保険料は月17,920円。夫婦2人で年約43万円。これは60歳まで毎年続きます
一方で明るい材料もあります。退職金の約600万円は、退職所得控除(勤続27年なら1,290万円まで非課税)の範囲内に収まるため、税金はかかりません。初年度は通常の年より130万円前後重くなるので、この「初年度の山」を退職金で受け止める、というのが現実的な位置づけです。
50〜60歳:3つのシナリオで資産寿命を計算する
年間の取り崩し額=支出−収入。これを毎年繰り返して、残高の推移を見ます。
| 労働収入 | 初年度の取り崩し | 2年目以降(年) | 60歳時点の残高 |
|---|---|---|---|
| 月5万円 | 約347万円 | 約219万円 | 約3,300万円 |
| 月10万円 | 約287万円 | 約159万円 | 約3,900万円 |
| 月15万円 | 約227万円 | 約99万円 | 約4,500万円 |
月5万円と月15万円では、60歳時点で約1,200万円の差がつきます。月10万円の労働収入は年間では120万円ですが、10年積み重なれば1,200万円。「ゆるく働く」ことの価値が数字で見えます。なお、60歳を境にグラフが横ばい〜上向きに変わるのは、繰上げ受給の年金(年約149万円)が収入に加わるためです。企業型DCはこのグラフに含めていません。
60〜65歳:年金を60歳から繰り上げる、という選択
60歳になると、2つの収入源が解禁されます。企業型DC(確定拠出年金)と、繰上げ受給を選んだ場合の公的年金です。
私の年金の見込み額を、ねんきん定期便の実績から計算しました。50歳で厚生年金を抜ける前提だと、65歳基準で月約16.4万円です。私はこれを60歳から繰り上げて受け取るつもりです。理由は単純で、老いてからより、体が動くうちにお金を使いたいからです。ただし繰上げには明確な代償があります。60歳ちょうどから受け取ると減額率は24%(月0.4%×60ヶ月)。月約16.4万円が月約12.4万円になり、この減額は一生続きます。
- 繰上げは一度選ぶと取り消せません
- 繰り上げると国民年金の任意加入(60〜65歳)ができなくなります
- 障害年金・寡婦年金など、他の給付に影響が出る場合があります
もう一つ、正直に書いておきます。私は20歳から就職までの28ヶ月が学生納付特例のままで、追納していません。追納の期限(10年)はとうに過ぎているので、この28ヶ月分、基礎年金は満額から欠けた状態が確定しています。先ほどの月約16.4万円は、この欠けを織り込んだ数字です。
この期の家計は一気に楽になります。繰上げ年金の年約149万円と配当86万円に、65歳まで続ける労働収入が重なるため、月10万円・15万円のシナリオでは収支がプラスに転じ、月5万円でも取り崩しは年25万円程度まで縮みます。企業型DCも60歳から受け取れますが、本記事の試算には含めず、余白側に置いています。
65歳以降:会社員を続けた場合と、いくら違うのか
ねんきん定期便とねんきんネットの試算を並べると、働き方によって年金がどれだけ変わるかが見えます。
| 働き方 | 月額(65歳基準) | 実際の受け取り |
|---|---|---|
| 60歳まで現在の年収で働く | 約22万円 | 65歳から月約22万円 |
| 50歳退職・繰上げなし | 約16.4万円 | 65歳から月約16.4万円 |
| 50歳退職+60歳繰上げ(私の計画) | 約16.4万円 | 60歳から月約12.4万円 |
差を分解すると、月約5.6万円が「50歳で会社員を辞めること」の代償、月約3.9万円が「60歳から受け取ること」の代償です。合わせて月約9.6万円、年間では約115万円。これを時間と引き換えに手放す計算になります。この数字を高いと見るか、妥当と見るかが、セミリタイアの判断そのものだと思います。
判定:5,000万円は必要か。4,500万円でも成立するか
3つの期を通しで計算すると、資産が尽きる年齢はこうなります。4,500万円スタートの列は、高配当株も同じ比率で小さくなる(配当は年約77万円になる)前提です。
| 労働収入 | 5,000万円+退職金でスタート | 4,500万円+退職金でスタート |
|---|---|---|
| 月5万円 | 102歳前後 | 92歳前後 |
| 月10万円 | 112歳前後(実質尽きない) | 101歳前後 |
| 月15万円 | 計算上は尽きない | 111歳前後(実質尽きない) |
この試算に入れていない余白は、妻のパート収入(年約120万円)、妻自身の年金、企業型DCの3つです。逆に、織り込んでいないリスクの代表は減配です。年86万円の配当は約束されたものではなく、高配当株の宿命として減配の年は必ず来ます。
以上を踏まえた、現時点の私の判定です。5,000万円と出口戦略の記事に書いた内訳が完成していれば、月5万円のゆるい労働でも成立すると判断します。4,500万円で走り出す場合も、最も厳しいシナリオで92歳前後までは持つ計算なので、余白を考えれば現実的な範囲です。ただし急所は総額ではなく配当側にあります。配当を生む高配当株2,400万円を作り終えることが、5,000万円という総額と同じくらい重要な成立条件です。
現在の達成率は約71%(約3,550万円)。残り4年半で目標に届くかどうかは、資産公開シリーズで四半期ごとに追いかけていきます。
参考:S&P500の成長を見込むと、数字はこう変わる
ここまでの基本ケースは、運用リターンをゼロに置いた保守的な計算です。ただ、私はNISAのつみたて投資枠でS&P500を積み立て続けています。育つことを一切見込まないなら、貯金と変わりません。そこで、S&P500部分(つみたて枠600万円+特定口座1,000万円=計1,600万円)が年3%で育つ参考ケースも示しておきます。
| 労働収入 | 65歳時点の残高(基本ケース) | 65歳時点の残高(年3%ケース) |
|---|---|---|
| 月5万円 | 約3,200万円 | 約4,000万円 |
| 月10万円 | 約4,100万円 | 約5,000万円 |
| 月15万円 | 約5,000万円 | 約5,900万円 |
年3%で15年育つだけで、65歳時点の残高は約900万円上振れし、3つのシナリオとも計算上は資産が尽きなくなります。とはいえ相場に約束はないので、成立可否の判定はあくまでリターンゼロの基本ケースで行いました。NISAの積み立てを続ける意味は、この上振れの余白を育てることにあります。
自分の場合はどうか。必要な数字は3つだけ
ここまでは私の家計の話ですが、検証の枠組み自体は誰でも同じです。用意する数字は3つだけです。
- 年間の生活費:月の生活費×12。退職後は社会保険と税を別枠で上乗せする(会社員の感覚より重くなります)
- 時期ごとの収入:何歳まで・月いくら働くか、配当などの資産収入、そして年金の見込み額。年金はねんきん定期便とねんきんネットで確認できます
- スタート資産:金融資産の総額+退職金の概算
あとは「(支出−収入)×年数」を資産と見比べるだけです。注意点は2つ。退職初年度だけ住民税と国保が前年所得ベースで重くなること、そして年金は繰上げ・繰下げの選択で実額が大きく変わることです。この2つを押さえれば、本記事と同じ検証がご自身の数字でできます。下の簡易シミュレーターに数字を入れると、その場で目安が出ます。
セミリタイア簡易シミュレーター
本記事と同じ骨格の簡易計算です(運用リターン0%・2026年度価格)。社会保険・税は「60歳まで/60歳以降」の二段階で簡略化しています。結果は概算の目安であり、将来を保証するものではありません。初期値は本文の「月10万円シナリオ」と同じ数字です。
まとめ
検証して分かったのは、50歳セミリタイアの成否を分けるのは資産の総額だけではない、ということです。年86万円の手取り配当を生む高配当株2,400万円と、65歳まで月5万〜15万円をゆるく稼ぐ働き方。この2つが揃えば、5,000万円という目標は数字の上で機能します。残り4年半でやるべきことは、総額を追いかけることと同じくらい、配当を生む部分を完成させることだと感じています。
本記事は私個人の家計の試算であり、特定の判断を推奨するものではありません。年金額は2026年度価格の概算です。正確な見込み額はねんきんネットや年金事務所でご確認ください。
よくある質問
Q. 基本ケースで運用リターンをゼロにしているのはなぜですか?
成立可否の判定を保守側で行うためです。リターンを見込んで「成立する」と結論づけると、相場次第で計画が崩れます。年3%で育つ場合の数字は参考ケースとして本文に載せています。
Q. 配偶者の収入を計算に入れないのはなぜですか?
「配偶者が働き続けること」を計画の成立条件にしたくないからです。実際には収入が見込めるため、その分はすべて安全余白になります。
Q. 繰上げ受給は損だと言われますが?
損益分岐(おおむね80歳前後)より長生きすれば、総額では減ります。私は総額より「使える時期」を優先する判断をしましたが、これは価値観の問題で、正解はありません。繰上げは取り消せないため、慎重に判断すべき選択です。
あわせてどうぞ。お金の実践の全体像はお金の完全ガイド、取り崩しの順番と仕組みは新NISAの出口戦略で扱っています。
